ちょっとブレイク 2005

ここでは、社会福祉に関連する著書、小説などを紹介します。

 
高橋シズヱ・河原理子 編.(2005).〈犯罪被害者〉が報道を変える.岩波書店.1800円
〈犯罪被害者〉が,本当に体験したことは?
事件をめぐる取材や報道について,どう考えているのか。
編者たちの提案により,被害者と取材者が,何年も率直に語り合った。
社の枠を超えて話し合い,取材者たちは何を感じたのか。
そして,いま,どのような記事を書きたいと思っているのか。
被害者たちの多様な想いや報道への提案,取材者への試行錯誤などを熱く綴った画期的な一冊。

 犯罪の被害者になることで,それまでの「ごくあたりまえの生活」は一変します。さらに追い打ちをかけるような報道の取材が押し寄せてきます。
 犯罪被害者の支援をソーシャルワーカーはどのようにしているのだろうか。というヒントが隠されていないだろうかという視点で購入したのですが,被害者を支える専門職としては触れられているところはありませんでした。
 さまざまな立場の当事者に対して,その生活を保障するためにソーシャルワーカーは存在するはずなのに……,と考えてしまいます。
中山あゆみ.(2005).病院で死なないという選択−在宅・ホスピスを選んだ家族たち−.集英社新書(0229).(2005年11月4日 追加)
 人生の最後のときを,自宅やホスピスで過ごすことを選んだ家族を紹介する。家族が置かれた状況はさまざまだが,それぞれが自分らしく最後の日々を生き抜いて,納得のいくかたちで最期を迎えていった。
 がんの末期に至った患者とその家族,医療関係者たちの姿を描いた痛切なドキュメント。(扉より転記)

 さまざまなタイプの10の家族のありようが紹介されています。それぞれの家族がどのような思いをしているのか,大変な状況のなか安らかな死を迎えられるようになった経緯が分かります。

 しかし,そこには精一杯頑張っている家族と家族の苦しみを理解できない病院の医療従事者という構図があります。そして,在宅ケアを選択することによって,当事者主体のケアが実現していくという対比が描かれています。なぜ病院だと本人や家族に寄り添う治療やケアができにくいのか,在宅だとそれがなぜ可能になるのか……。いろいろなことを考えさせられます。
 本の最期で,当事者が在宅やホスピスでのケアを強く希望すること,その希望をサポートする医療者が必要不可欠であるということが強調されています。
 当事者(患者・家族)と医療者の間に立ち,当事者の意向を尊重できるような医療・ケアを受けることができるようにするには,医療ソーシャルワーカーが必要であると考えますが,このことについてはほとんど紹介されていません。それが残念です。
計見一雄.(2004).統合失調症あるいは精神分裂病−精神医学の虚実−.講談社選書メチエ.  (2005年10月21日 追加)
 目の前の何でもない風景が急にまがまがしく見える時。
 そこからはじまる「病」はいかに進展するのか?いかに回復していくのか?果たして何が「分裂」し、何が「失調」するのか?精神科急性期治療の第一線に立ち続けてきた著者が、従来「精神分裂病」に付随して語られてきた誤謬を論破し、治癒へつながる「病の本質」を解明する講義。(扉より転記)

 これまで病気に関する本は結構読んで来たつもりですが,この本は久々にワクワクしながら読みました。「ワクワク」したのは,自分が病気について考えていたことについて,腑に落ちない感じがしていたことが解明されたからですし,新しい見方について知ることができたからです。
 統合失調症という病気は健康だと思っている私たちのものの見方や他者との関係の取り方などと深い関係があり,自分の精神的安定性を得るために行っていることとの連続性のなかに病理があるのだということを再確認できたからです。
 統合失調症の患者さんは意味不明で了解不能であるという考え方ではなく,当事者を理解するための考え方が多く紹介されています。
井末春.(2004).うつと自殺.集英社新書(2005年6月16日 追加)
 激増する中高年男性の自殺。その多くはうつ病が引き金になっている。うつ病をまねくのは,経済問題や人間関係の悩みだけではない。他の病気や手術でからだが弱っていることが,うつ病を引き起こすケースもある。そのうえ,慢性化した頭痛や腰痛,インポテンツ,食欲不振など,さまざまな身体症状にうつ病は隠れたり,共存しながら心身を蝕んでいく。
(扉より転記)

 この本は,自殺に大きな影響を与えているうつ病に関する本です。
 自殺だけではなく,さまざまな身体の病気とも大きな関係があることが書かれています。うつ病を初期の段階で発見するためにもその身体の病気との関係を知っておくことは重要だと書かれています。特に,睡眠障害は重要です。
 うつ病の当事者だけではなく,家族や精神保健福祉の専門職としても知っておく必要があることについての記述もあります。
 身体の病気と心の病気は非常に影響しているのに,別々の病気として扱われるために現れる問題についても触れられています。
川村実・佐野卓志・中内堅・名月かな.(2005).統合失調症と私とクスリ.ぶどう社.(2005年6月6日 追加)
 この本は,MLを通じて知りました。サブタイトルに,「かしこい病者になるために」とあります。
 最近,精神障害を持つ当事者が多くを語りはじめていますが,クスリのことについて語った本は,初めてです。
 内容は非常に分かりやすく,私自身が精神科病院にPSW(精神科ソーシャルワーカー)として勤めていたときに,良く患者さんに話していたことと同じことが書かれていて,「へーっ,一緒じゃん」と思った次第です。
村上陽一郎.(1994).科学者とは何か.新潮選書.(2005年5月13日 追加)
 この本は,科学者が考えなければならない,科学者(研究者)としての倫理や価値観について書かれています。内容は,歴史的な変化のなかで,科学者がどのようにして共同体を形成して,そのなかでどのような倫理や価値観が作られてきたのか等が述べられています。
 私は,ソーシャルワーカーというアイデンティティを持ちながら,大学の教員であるわけです。以前より,ソーシャルワーカーの倫理や価値についてはその重要性を実感しているところですが,科学者(研究者)としても同様に考えていく必要があります。
 ソーシャルワーカーは科学者(研究者)というより,実践者としての側面が強いと思いますが,科学的な方法によってソーシャルワークを捉えていく必要があると思います。そんなふうに思って読んでいると,科学者と技術者(ソーシャルワークでいうと実践者に近いと思います)の違いや関係について述べられていたり,科学と神との関係が書かれており,非常に興味深く読めました。
 ソーシャルワーカーという専門職はキリスト教文化の影響のもとに生成,発展してきていますが,そのあたりのことにつながることですので,きちんと理解しておきたいと思いました。
磯部潮.(2003).人格障害かもしれない −どうして普通にできないんだろう−.光文社新書094.700円(2005年4月14日 追加)
(著者のことば:本の扉に書かれている紹介文)
 人格障害と診断が可能な人たちのなかには,特異な才能を持った人が一部に存在します。彼らの多くは生活が破綻し,アルコールや薬物に手を出したり,自殺を何度も試みたり,実際に自殺してしまったり,友人関係や異性関係がいつも不安定だったりします。その一方で彼らは非常に精力的に創作活動を行い,創造的な仕事をしています。これらの代表的な人物として,本書では尾崎豊,太宰治,三島由紀夫を取り上げています。
 彼らは人格障害であるが故に苦しんでいましたが,それ故のエネルギーも有していたのです。このエネルギーは多くの人格障害の人に認められます。

 この本は,書店で偶然見つけた本です。発行年が2003年ですから,もっと以前に読んでいてもよかった本ですが,出会うのに時間がかかっています(内容とは関係ありませんが)。
 著者の言葉にもありますが,人格障害の人は,ここ数年の事件の影響があるからでしょうか,非常にマイナスの側面ばかりが強調されています。物事にはマイナスの側面ばかりではなく,プラスの側面もあるのですが,非常に偏ったとらえ方が大多数です。この本では,人格障害の人のプラスの側面を積極的に紹介しようとされています。 

 また,凶悪事件を起こした人など,マイナスの側面も非常に個別性があり,人格障害の人の共通点ばかりを強調して,すべての人格障害の人が危険であるという考え方に対しても注意を呼びかけています。
 一定数以上の精神障害を持つ当事者と接すると,当たり前のことですが,病気や障害の共通点だけではない個別性が分かります。しかし,多くの人は日常的に複数の精神障害を持つ当事者と接することがありません。いきおい,出会った人が100%そうなのだというふうになってしまいます。

 この本を読むことで,人格障害の人のプラス面とマイナス面,多様性と普遍性(共通点)を意識しました。
斎藤学.(1998).アダルトチルドレンと家族.学陽文庫(2005年4月12日 追加)
 この本は,学陽書房から1996年に単行本として発行されたものが文庫になったものです。以前にも読んでいたのですが,再度読み直しました。
 アダルトチルドレンに関する本はいくつかありますが,私が一番最初に読んだのがこの本でした。
 裏表紙には,次のような書かれています。

「周囲が期待しているように振る舞おうとする」「NOが言えない」「しがみつきと愛情を混同する」など,安全な場所として機能しない家族のなかで育った人々が抱える心の問題を解き明かし,生き生きとした自分を取り戻す方法を具体的に提示したベストセラー,待望の文庫化!

 アダルトチルドレンとはどのような概念なのかに始まり,最終的にはどのようにして癒されるのかについてまで,家族との関係に焦点を当てて書かれている本です。
芹沢一也.(2005).狂気と犯罪 −なぜ日本は世界一の精神病国家になったのか−.講談社+α新書.(2005年4月9日 追加)
 この本は,前任校(福山平成大学)の同僚が教えてくれた本です。社会学の視点から精神科医療や精神障害者福祉について書かれている本です。
 「はじめに」で,著者は「精神障害者の処遇の歴史と,それを支えてきた『思想』を描き出そうとしている。思想というのは,ものの考え方であり,ある発言や行為を当然だとする根拠でもある」と書いています。
 これまでには,このような内容の本には出会ったことがないように思います。。精神保健福祉の制度がどのようにして作られてきたのかということについて,その時代の背景や精神医学や精神保健に関する諸外国(アメリカが中心)の対応などについての記述については多くありますが,日本の歴史を振り返ることによって考察するという方法は珍しいのではないでしょうか。
 欧米の精神保健福祉に関する理論も重要かつ必要ですが,人々の考え方や行動の仕方に大きく影響を与える「思想」も非常に重要だと思います。今や社会福祉を支えるようになっているノーマライゼーションの思想も,それは実際の行動や制度につながってはじめて意味を持ちます。逆に,この本に書かれているように,人々の考え方や行動の仕方に大きな影響を与えているのは「思想」ですから,どのような「思想」がもとにあって人々の行動や考え方になっているのかということも考える必要があると思います。
 欧米で作られた思想や理論が日本ではなかなか根付かず,活用されにくいことを考えると,思想とそれを具現化した結果としての考え方や行動の仕方の関係を改めて整理することも重要であると,この本を読んで思いました。
武田建.(2004).人間関係を良くするカウンセリング −心理,福祉,教育,看護,保育のために−.誠信書房. (2005年2月5日 追加)
 カウンセリングは,臨床心理士だけのものではありません。サブタイトルにあるように,それ以外の対人援助職にも必要とされる方法です。
 この本は,カウンセリングの方法について,非常に分かりやすい言葉で書かれています。主に来談者中心療法の中心的な方法である「傾聴」について書かれています。そして,この「傾聴」は,本の中にあるように,それだけではなく,さまざまな方法の基礎になるものです。
 個人的なことですが,1年だけですが関西学院大学に聴講生として学んだことがあります。その時に,武田建先生には大変お世話になりました。
 文章を読んでいて,改めて武田先生の暖かい人柄を感じることができました。
辛淑玉.(2004).怒りの方法.岩波新書890.(2005年2月4日 追加)
 ブックカバーには,次のように書かれています。

 うまく怒れないという悩みは意外に多い。だが,怒りは,
 生きる力にも,人間関係を変えていくきっかけにもなる。
 どうすれば,怒りの感情を効果的に相手に伝えられるのか。
 社会への怒りは,どう表現すればいいのか。怒り上手を自
 認する著者が,怒りを封じ込めようとする日本社会の歪み
 を指摘しながら,怒りの素を取り除く方法を伝授する。

 辛淑玉さんは以前福山市に講演に来られ,その時に講演を聞いたこともあり,親近感を持っています。
 また,前回講演を聞いた後にメールをお送りしたら,早速レスをしていただ来ました。それだけに,辛さんの話には関心がありました。
 この本はたまたま本屋で見つけたものです。辛さんは女性であること,朝鮮人であることにまつわる差別や不適切な対応などを中心に「怒り」のことを書かれています。
 私は,読みながら精神障害を持つ当事者に対する差別のことを考えていました。ソーシャルワークの背景には本人の力ではどうにもならないことに対する「怒り」が必要であると思います。その怒りをどのように表現するのかということについて非常に分かりやすく書かれています。
 「怒り」の表現については,アサーティブとは書かれていませんが,まさに同じ方法ですね。ソーシャルワーカーとしても,怒りの方法を知っておくことが重要であると再確認した本です。
有村律子・三橋良子・山本深雪・丹羽真一・松浦幸子・伊藤純一郎・NHK「無理解をなくそう統合失調症」制作版.(2005).NHK「生活ほっとモーニング」 統合失調症を生きる −当事者・家族・医療の現場から−.NHK出版.(2005年2月2日 追加)  
 この本は,最近増えてきている当事者の思いを語るという形式の内容であると思って購入したものです。従来の本との違いは,当事者だけでなく家族の思いも取り入れられているし,最近の精神医療やリハビリテーションや心理教育のことなどにも触れられているという点です。
 精神障害を持つ当事者が,地域で当たり前に暮らすことを阻害する大きな要因として偏見や差別がありますが,その背景には精神疾患や精神障害に対する無理解があります。知らないことでいたずらに恐怖感を持ってしまったりしますし,そのことが精神障害を持つ当事者の社会参加を阻害するのです。
 この本では,NHKのスタッフが精神疾患のことや精神保健福祉のことを知らなかったことを率直に書かれていますし,精神障害を持つ当事者や家族と接することで,無理解の恐ろしさを実感しておられることが分かります。
 精神保健福祉を理解したいと思われる方に,最新の情報が提供されているので,おすすめです。

 蛇足
 報道機関として今まで伝えてこなかったことの反省も書かれており,精神障害に対するマイナスイメージばかりを伝えてきたといわれますが,このような姿勢はとても嬉しいことです。

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